意地悪な彼氏様 2
俺に言わせれば、不良と噂されている吾妻君よりも真一の方が何十倍も怖い。
だって、実際の吾妻君は礼儀正しくていい子だった。
その日、日直であった俺は先生に頼まれて教材を片付けるために資材室へと向かっていた。
面倒だからと、一度に全部持っていこうと思ったのが悪かった。
前も見えない状態で歩いていたら、途中で誰かの腕が荷物に当たってしまい、崩れ落ちそうになった所を咄嗟に押さえてくれた。
お礼を言おうとしたら、その瞬間、周りがざわめきだした。
「え?」
何だろうと、助けてくれた相手を見ようと顔を上げようとしたら、
「気をつけろよ」
と俺のわきをすり抜けていく。
「え、あ、ありがとう」
その時、やっとその相手が誰だかを見ることが出来て、それが噂の彼であったことを知った。
噂通りであれば俺を助けたりしない。それ所が殴られていたかもしれない。
随分と現実は違うなと思いながらその場はそれで終わったのだが、次に図書室で出会った時、その印象は更に変わる事となる。
何か本を探しているようで、指をさしながら本棚を移動していた。しかも眼鏡をかけていて、キツイ目元が柔らかく見える。
「何か探しているの?」
そう声を掛ければ、腕章を見て俺が図書委員の者だと気が付き、
「今、レポートを書く所なんすけど……、ちょといいすか?」
と言われて後をついていくと、そこに優等生風な子が居る。
一体、どういう関係なんだろうと二人を見ていれば、その視線に気づいて優等生風の子が咳払いをする。
不躾な視線を向けてしまった。失礼だよねと恥ずかしくなる。
「実はこの本が無いか探しているのですが」
そのメモには本のタイトルが書かれていた。
「あぁ、この本ね。歴史書の棚ではなくて、こっちに置いてあるよ」
そういうと俺は二人を本のある場所まで案内する。
「ありがとうございます」
二人から頭を下げられて、勉強頑張ってねと言って俺は持ち場へと戻る。
まさか吾妻君に頭を下げられるとは思わなかったから驚いたっけ。
で、だ。俺は吾妻君の事を真一に話をしたわけなんだけど、ね。
「お前さ、吾妻の話ばっかしてるけど、俺が楽しいとでも思ってんの?」
と睨まれた。しかも、縮みあがりそうなほど怖い目で。俺はびくびくしながら、
「……さぁ?」
とこたえる。まぁ、機嫌が悪い事だけは伝わってきた。
「吾妻が噂のよう奴じゃねぇことぐらい知ってる。ていうか、駄目な奴を優の傍に置かねぇし」
「え、優君?」
つい最近仲良くさせてもらっている下級生だ。傍にいると和むし落ち着くしで俺がほんわかっとした気持ちになりかけた時、真一が俺を床へと押し倒した。
「彼氏様と一緒にいるっていうのに、何、他の男の事を考えてんだよ」
ひぃ、本気で目が怒っている。
「え、いや、あの……」
「俺のモンだって、教え込まねぇと解らねぇの?」
この頃の真一は容赦ない。学校に居る時でも俺にエッチな事をしようとする。
昨日もいっぱい胸を弄られてヒリヒリするんだよね。
思い出して頬が赤くなってしまう俺に、真一が口角を上げて「助平」と耳打ちした。
「す、助平は真一の方だからねっ」
恥ずかしくて手で顔を覆う。
「はっ、『もっと先っぽを触って』とか『吸ってくれなきゃ嫌っ』とか言ってたの、このお口じゃなかったのか?」
と顔を覆った手の上へとキスを落としていく。
「んっ、いやぁ、言わないでよ」
このまま恥ずかしさで死ねる。
「している時は、おねだり上手なのにな」
「真一のばかぁ」
「はは、学年一位の俺に向かって馬鹿なんて口にするのはお前位だよ」
抱きしめられ、手がズボンの隙間から入り込む。
「え、あ、ちょっと」
「自分で脱がないと、このまま濡らす」
自分の精液で濡れた下着を身に着けたままでいろというのか。
「いじわる」
その口と行動は、俺の方からズボンを脱ぐように差し向けてくる。
その瞬間を待つ真一の視線を感じつつ、俺はベルトを外し、ズボンと下着を下ろした。
「大好きな子ほど苛めたいタチなんでね」
ゾクゾクっとするような笑みだ。
「俺は苛められたくない。……可愛がって欲しい」
と、語尾は小さく、真一に届くかどうかくらいの声で言う。
「勿論だ」
ズボンを下ろす姿をじっと見つめられる。恥ずかしいけれど、求められている事が嬉しい。
晒された下半身に真一の舌が這う。
「ほら、おねだりしろよ?」
とその言葉に、
「真一の、お口の中に、俺の、入れて」
俺は身体を震わせて普段では恥ずかしくて言えない事を口にした。
口の中へのおねだりは、三倍になって返す羽目となった。
身体じゅうがベトベトで、それは真一が綺麗にふき取ってくれたけれど、体力が限界だ。
ウトウトとする俺に、身体を抱きしめながら、さっきの続きなと言って話し始める。
優君と吾妻の関係。つい最近、二人は恋人同士になった事、見た目と違い礼儀正しく頭が良いのだという。
「そっか。優君に惚れたのは吾妻君が先なんだ。見る目があるね。良い子だものね」
「それは認める。だが、お前は俺だけみてろ」
真一はヤキモチ妬きだ。
話をするくらい良いと思うのに、それすら許してくれない。
「どんだけ俺の事が好きなんだよ」
冗談で言っただけなのに、
「それだけ惚れてるんだ。お前は自惚れろ」
と真面目に返された。
やられた。
「もうっ、そんな事をいうから、キスして欲しくなっちゃった」
「ほう、可愛い事が言えるようになったな」
唇が重なり、手を握りしめられる。
互いの舌と指が愛を感じ合うように絡まりとろけていく。
「すき」
キスの合間に呟く言葉に、真一の目が優しく俺を見つめた。