カラメル

二人は幼馴染

 真一が企んだ通りに吾妻は俺の舎弟だという噂が広がり、いつの間にか俺はどこかの族の総長となったようだ。
 もともと俺は嫌われていたから周りにどう見られようが構わないけど、噂を信じていない一部のクラスメイトから「総長」とか言われて、それは流石にやめてほしいかな。
 報復を恐れて俺に対して陰口を叩く人は減ったけれど、怖がられてしまうので教室に居ずらいのは変わらない。
 昼休みになると吾妻が迎えに来てくれて一緒に屋上に行ったり保健室に行く。
 俺と一緒にいられることを素直に喜ぶ吾妻を見ていると、俺まで嬉しい気持ちになってくる。
 この頃の俺はそんな感じで、でも素直じゃないからそれは心の中へと閉まっていた。

 平塚君に会ってお礼を言いたい。そう川上君に頼んで保健室で待ち合わせることになった。
 今では俺は総長、吾妻は舎弟という噂になっているので会ってくれないかもと思っていたが、待ち合わせの場所に来てくれた。
「来てくれてありがとう」
「俺もまた先輩にお会いしたいと思っていたので、川上君から聞いてすごく嬉しかったです」
 と、いって貰えて安堵する。
「俺、今、総長とか言われているから、会ってもらえるかなって思っててさ」
「噂の事なら川上君からも聞いてます。それに俺は信じていませんでしたし」
 そう笑みを浮かべ、
「先輩は俺と一緒だから」
 とつぶやいた。
「え、それはどういう……?」
 言いにくそうな平塚君に、川上君がかわりにとばかりに口を開く。
「平塚の幼馴染って、笈川瞬(おいかわしゅん)なんですよ」
 彼の事はご存知でしょうかと聞かれて俺は頷く。
 一年に可愛い子が入ってきたと、クラスメイトが騒いでいた。なので彼の事は知っている。
 しかも、久遠の事を天使ちゃん、笈川君の事を小悪魔ちゃんと呼んでアイドル扱いしているのだ。
 俺も何度か笈川君を見かけたことがあり、つり目の美少年だなって思った。
「そう、なんだ」
 もしかしたら陰口とか言われているのかもしれないな。だから俺と同じだと言う訳か。
 それから俯いて黙り込む平塚君に、どうしたんだろうと思いながら肩に触れようとしたら、顔を上げて真っ直ぐと俺を見る。その表情は今にも泣き出しそうだ。
「ごめんなさい。木邑先輩が狙われたのは、多分、俺のせいなんです」
 と頭を下げる。
「どういう事?」
「俺は笈川君の所有物なんです。だから笈川君以外の人に興味を持ってはいけないんです」
 なんだそれは。
 所有物だとか、自分以外の誰かに興味を持ってはいけないとか、どれだけ自分勝手なのだろうか。
「平塚君、君は笈川君と幼馴染なんだよね?」
「はい。小さな頃から笈川君の我儘を許していた俺が悪いんです」
 だから俺はこのままで良いと言う平塚君に、俺は彼の手をとりぎゅっと掴む。
「駄目だよ、そんな風に思っては」
 いいえと、平塚君は首を横に振り。
「俺が笈川君と幼馴染だからと傍に居るだけで陰口とかすごくて。下の名前で呼ぶだけでもすごい目で睨まれたりしました。それが嫌になって。笈川君を避けるようになってしまったんです。その時に所有物の癖にって言われて」
 笈川君と彼の取り巻き達の言葉が平塚君を苦しめている。
 俺は許せなくて怒りで肩を震わせる。
「なんなの、笈川君って!」
「先輩、落ち着いて下さい」
 川上君が俺を宥める様に背中をさすり、平塚君はますます申し訳なさそうに頭をたれる。
「俺が木邑先輩の事をもっと知りたいって、そう思ったばかりに」
 それがいけなかったんですけどね、と、申し訳なさそうに俺を見る平塚君に、君のせいじゃないと肩を叩く。
「俺は何をされても大丈夫だから。平塚君、俺とお友達になろう」
「え、ですが、俺はっ」
 躊躇う平塚君に、俺は押しのもう一手を口にする。
「俺の事を守ってくれる舎弟がいるから大丈夫だよ」
 噂で聞いているでしょうと、微笑んで見せる。
「ふ、あはは、木邑先輩、貴方って人は」
 最強な舎弟ですねと、平塚君は笑い。そして俺の手を握りしめて宜しくお願いしますと頭を下げた。  

 平塚君か言う通りなら黒幕は笈川君だろう。だけど証拠はない。
 俺を連れて行った奴らは真一の情報網によって既に割り出されており、話を聞くと言っていたのでそちらは任せるとして、俺は笈川君の口から話を聞きたいと思った。
 実は皆に内緒で平塚君に笈川君と会いたいという事を告げ、会う約束をつけたのだ。
 ただ、吾妻には黙っておけないので話をしたが、心配はするが俺を止める事は無かった。
「優、何かあったら叫べよ」
「うん、解ってる。それ、もう何回も聞いた」
 心配性だなと笑えば、
「しょうがねぇだろう」
 と俺の頬を手の甲で撫で心配そうに俺を見る吾妻。
 あぁ、今、すごくキスしてほしいな。そう思っていたら額に吾妻の唇が触れた。
「勇気の出るおまじない?」
 ふふっと俺は笑みを浮かべて額を指させば、吾妻が口角を上げて、
「そう。で、こっちは好きな奴にするキス」
 と唇を重ねた。
 素直にそのキスを受け入れる俺に、吾妻は目を細めて舌をからめる。
「ふ、あ」
 そう、自分の心に正直になった俺に、吾妻のキスは気持ち良いだけでなく幸せを与えてくれる。
 息が上がるほど深く口づけて、唇が離れる時には透明な糸がつなぎ合う。
 それがプツリときれた時に、寂しい顔を思わず浮かべてしまって。吾妻がやけに嬉しそうに目を細めてかるく触れるだけのキスをした。
「全部カタがついたら、もっとすげぇ事をしようぜ」
 と、そう耳元で囁いて尻を意味ありげに揉まれた。
「ひゃっ! こら、調子にのるな」
 吾妻の手の甲をおもいきりつねってやれば、痛ぇと言って手が離れた。
「……吾妻、ここで待っていてね。俺、行ってくるから」
「おう」
「すげぇ事、楽しみにしてる」
 そう呟いて吾妻から離れようとした時。腕を掴まれて強く抱きしめられる。
「優、愛してる」
 そういうと吾妻の身体が離れ、俺は息を深くはき出すと待ち合わせをしている場所へと向かった。