Short Story

恋人になろう

 付き合うようになり、時間が会えば一緒に過ごすようになった。
「なぁ、今度、俺の友達と飲まないか?」
 この頃、スマートフォンばかり弄っているといわれ、恋人ができたのかと聞かれたらしい。
 その時に豊島のことを話したら、会いたいと言われたそうだ。
 友達も自分たちと同じく同性カップルらしく、豊島も会いたいと伝えた。
 待ち合わせは、真田の通う大学から近いところに公園があるそうで、そこになった。
 待つ間、自然と触れ合ってしまうのは、愛おしいという想いからだろう。口元がほころび、幸せだなと実感する。
 そんな二人の前に、
「何、俺のモンに馴れ馴れしく触ってんだよ」
 と、ガラガラ声の男が立ちふさがる。
「秋庭……」
 彼の姿を見た途端、自分の身に起きたことを思い出して血の気が引く。
 真田は豊島を守るように一歩前に立つ。
 そうだ、今は真田と一緒なのだ。大丈夫、そう言い聞かせるが身体が震えてしまう。
「はぁ、なにそれ」
 秋庭が不機嫌そうに真田を見た後、
「豊島、こいよ」
 と腕を伸ばしつかまれる。
「やだ」
 触れられただけで鳥肌が立ち、気分が悪くなる。
 豊島の腕をつかむ秋庭の手を真田が引き離した。
「嫌がっているだろう」
「ああ? 俺のモンだ。どうしようと勝手だろうが」
 という。
「成、お前は秋庭のモノなのか?」
 きちんと言葉にしてやれ、そういっているように見えた。
 秋庭と向き合うのは怖い。だが、これだけはきちんと伝えなければいけない。
「俺はっ、秋庭の、モノじゃない!」
 言葉につっかえながらも秋庭に本心をぶつけることができた。
 真田が目を細めてよく言えたなと頭を手を置いた。
「なっ」
 その言葉に愕然とする秋庭に、
「そういうことだ。いこうか、成」
 と下の名前を呼び、手を握りしめる。
「うん」
 そのまま歩き出す二人に、秋庭は阻止するように前へと立つ。
「おま、何言ってんの? 俺に抱かれて善がりまくってたじゃねぇか」
「お前のしたことは犯罪だ、バカ野郎」
「は、調子に乗るな」
 秋庭が胸ぐらをつかむ。だが、それを払いのけ、
「それはお前だ」
 というと、秋庭が真田に殴りかかった。
「真田!」
「豊島、離れていろ」
 そういわれるが、二人は豊島を無視し、殴り合いをしている。
 秋庭が一方的に攻撃をし、真田がよける、そんな感じだ。相手の体力を奪い戦意喪失を狙っているのだろう。
 次第に秋庭の息が上がり足がふらついた。
「くそ、逃げんなっ!」
 と殴りかかったところに、真田がその腕をつかんでねじり上げた。
「あっ、痛ぇ」
「いい加減にしろよ。お前じゃ俺には敵わない」
 冷たい声で言い放つと、秋庭を突き飛ばした。
 地面に倒れこむ秋庭に、
「もう、成につきまとうな」
 そう言い、豊島の元へとくる。
「行こう」
 肩に腕を回して歩き出そうとした、その時。
「待てよ、真田ァ」
 大声で叫び、二人が振り返ると、ポケットに手を突っ込みナイフを取り出した。
「なっ」
「だめっ!」
 咄嗟に前に出た。するとナイフを構えて秋庭が突っ込んでくる。その瞬間はまるでスローモーションのように見えた。
 このまま秋庭に刺されて怪我をするだろう。だが、自分などどうでもよかった。真田さえ守れれば。
 だが真田が豊島の身体を抱きしめた。
「いやぁぁっ」
 ナイフが突き刺さる、はずだった。だが、二人の目にうつったのは秋庭の身体が吹き飛ぶ光景だった。
「えっ」
「えぇ!」
 そこに立つのは荒い息を吐く男で、その手にはリュックを握りしめていた。
「明石、君?」
 真田の呟きに、豊島は男を見る。すると、
「ナイフなんて危ないでしょうがっ!」
 興奮気味に怒鳴りつけ、そして、そのまま地面にへたり込んだ。
「潮君、大丈夫?」
「大丈夫なわけないでしょっ。こういう時に颯爽と現れて悪者を退治するのが王子様でしょうが」
 と、後から現れた、やたらきらきらとした男に怒鳴りつけた。
 何のことだろうか、それは。疑問に思いながら真田を見れば、おもいきり吹いた。
「ぶはっ、その通りだよなぁ、明石君」
 ゲラゲラと笑い、膝を叩く。豊島はなんのことだかわからないのでポカンとしたままだ。
「いや、無理だからね。ナイフを持ってる相手に立ち向かうのは」
 笑いすぎて涙を浮かべている真田に、
「真田、そろそろ紹介してよ」
 といえば、そうだったと紹介をしはじめる。
「このイケメンは俺の友達の樋山。で、勇敢な彼はこいつの恋人の明石君」
 真田が言っていたのは彼らだったのか。
「で、この子が俺の恋人の 豊島ね」
 話をしている途中、秋庭はいつの間にか姿を消していた。
 何か言い争うをしていると急いで待ち合わせの場所へと向かい、ナイフを見た瞬間にブチ切れたそうだ。
 自分でもこんな行動にでるとは思わなかったそうで、ようやく落ち着いた潮がそう話した。
「明石君のおかげで助かったよ。ありがとう」
 と手を握りしめると、潮が珍しく照れている。
「ちょっと潮君、何、その反応」
 樋山が嫉妬している。
「え、綺麗だし」
「く、あははは、明石君もやっぱり美人には弱いのね」
 と再び楽しそうに笑っている。
 高校生の時もだ。楽しいことがあると今見たく笑っていた。かっこいいだけでなく周りを明るくする人だなと思っていた。
「ふふっ」
 昔と変わらないなと思い出していたら、三人がこちらを見ていた。
「え、どうしたの?」
 いきなり笑ったからだろうか。
「うん、潮君が惚けるのも無理ないか」
「だろ、成は綺麗だからな」
「そうですね」
 と言われて、顔が熱くなる。
「やめてよぉ」
 恥ずかしくて頬に手を当てると、真田の腕が腰へと回る。
「さ、飯食いに行くぞ」
「うん」
 樋山と潮が前を歩き、真田と豊島はゆっくりと後に続く。
「ねぇ、真田」
 彼を見上げて手招きをすると、
「なんだ?」
 前にかがみこみ顔を近づける。その頬に手を添えると、真田の唇に軽く口づけた。
「成っ」
 いきなりのことに驚き、声が裏返る。
「大好きだよ、真田。俺の恋人になってください」
 こんなに想っているのに、まだ伝えていなかった言葉。
「大切なことを忘れていたな、俺たち」
「うん」
 真田の腕が豊島の身体を抱きしめる。
「あぁ、喜んで」
 その答えに笑顔を向けると、樋山と潮がおめでとうと言ってくれる。
「ありがとう」
 そして、真田からの口づけに、樋山がヒューと口笛を吹く。
「いちゃつくのは後にしてください」
 外ですよと潮の声に、二人は顔を合わせて笑った。