Short Story

無神経な彼と被害被る僕

 得意先へと新商品の導入の為、僕の勤める会社では生産と発送業務に追われていた。
 僕は品質管理課で在庫管理や試験などをおこなっているのだが、人手が欲しいと言われて生産管理課の応援として工場にいた。
 納期に間に合うように残業と休日出勤をして、やっと目途がついた頃にはクタクタとなっていた。

 工場での仕事を終えて事務所へと戻る。仕事はまだ残っていたが「あがっていいよ」と課長から言われた。
 これから事務の仕事をするのはしんどい。疲れきった頭では能率は上がらないしミスを起こして迷惑をかけてしまうかもしれない。
 お言葉に甘えて、僕はお先に失礼しますと挨拶をして更衣室へと向かう。
 汚れた作業服から私服に着替えていると、大原(おおはら)と名を呼ばれてそちらへと顔を向ければ、僕より一つ上の先輩である、経理部の高野(たかの)さんが「お疲れ」と手を上げる。
「おつかれさまです。納期に間に合ってよかったですね」
「そうだよな。仕事が忙しいという事は喜ばしいことなんだけど、俺、足とか腕とか筋肉痛……」
「僕もですよ」
 慣れない仕事で、普段使わない箇所が悲鳴をあげていたりする。
 現場の人は毎日大変なのに、少し手伝った位で情けないが明日から三連休で正直助かった。
「酒でも飲んでゆっくりしたいよ」
「ビール、美味しいでしょうね」
 仕事の後の一杯は、きっと最高の味だろう。
 僕は頭の中でキンキンに冷えたビールを想像してしまい、ものすごく飲みたくなってしまった。
「大原、今から予定あるか?」
 仕事の目途がつくまではと思っていたので、この後の予定は特に何もない。
「いえ、ありません」
 そうこたえれば、一緒に飲みに行かないかと誘われて僕は即OKした。
 さっそくと、二人は会社から近い馴染みの居酒屋へと向かった。

 

 仕事終わりの生ビールは骨身に染み渡る。
 僕は酒に強くて酔ったこともないし二日酔いにもなったことが無い。
「あれ、結構飲める口だったっけ?」
 ジョッキを開けていく姿を見て意外に思ったのか、そんな事を聞いてくる。
 たぶん、飲み会であまり僕が酒を飲まないからだろうな。
「はい。僕、いくら飲んでも酔わないんで」
 そういうとポケットから煙草を取り出す。仕事の時は吸わないが家や居酒屋などではどうしても吸いたくなる。
 煙草の方もみたいで、僕を見ながら目を丸くする。
「あぁ、会社では吸わないんですけどね」
「……そう、なんだ」
 大学の頃もコンパで同じような反応をされたことがあるが、僕って酒が弱くて煙草を吸わない人だと思われているのかな。
 そういえば、その時「酔って甘えてきそう」と言われたことがある。
 まぁ、その人には、絶対にありえないと言葉を返したけれどね。
「高野さん、ちょっと煙草買ってきますね」
 今ので煙草がなくなり、まだ飲むつもりなので煙草を買う為に席を立つ。
「あ、うん。行ってらっしゃい」
 煙草を買う為には、居酒屋の近くにあるコンビニに行かないといけない。
 店の外へ出て煙草を買い、再び中へと戻る。
 席へ向かおうとした所で、高野さんの隣に座る男に気が付いて立ち尽くす。
「よう、お疲れサン」
「なんで居るの!」
 そこに座っていたのは仕事が終わってまで会いたくない相手、しかも同じ課の先輩でもある羽柴良太(はしばりょうた)さん。
 彼は僕より10歳年上の37歳。事務所では彼が居ないと仕事が回らないと言われるほどの人だ。
 そんな彼が、大ジョッキで生ビールを飲みながら僕に文句を言う。
「おやぁ、広人、先輩に対してとる態度じゃねぇな、それ」
「はぁ」
 何かにつけて絡んでくるし、馴れ馴れしく僕の事を広人(ひろと)と呼ぶ。勇気がなくて呼ぶなといえない自分が悪いんだけどね。
 羽柴さんの隣で高野さんがそわそわと落ち着きがない。
 どうやら彼を苦手としているのは僕だけではないようで、折角の楽しい時間が台無しとなる。
「なんだよ、大原、全然進んでないじゃん。調子でも悪いのか?」
 大原さんのビールジョッキを見る羽柴さん。
「そ、そうなんだ。少し疲れがでちゃってさ。悪い、俺帰るわ」
 鞄を手に取ると席を立ち始める。 
 きっと疲れが出たんだろう。
「そうですか。じゃぁ、今日はこれでお開きにしましょう」
 僕も一緒に帰ろうとしたのだが、
「もう少し付き合え」
 と羽柴さんに腕を掴まれてしまう。こういう強引さが苦手な一つでもあるわけだ。
 帰るタイミングをなくしてしまった僕に、悪いなと手を合わせて高野は店を後にする。
 仕方なく僕は座布団の上へと腰を下ろした。
「ほら、飲めよ。まだいけるだろ?」
 ビールのジョッキを乱暴に置く羽柴さん。きめ細やかな泡がゆらりと波打つ。
 仕事に対してはきちんとしているのに、ほかの事では大雑把だ。
 僕は羽柴さんを軽く睨みつけると、こぼれそうになったビールを寸前のところで口に運んで一気に飲み干した。

◇…◆…◇

 酔っぱらった羽柴さんをどうにかタクシーに乗せたが、ヘラヘラ笑っているだけで行先を告げてくれない。
 仕方なく僕の家へと向かい、タクシーから降りた後が大変だった。
 僕の身長は羽柴さんの肩位しかない。しかも鍛えているのか体格もがっちりとしている。そんな彼を部屋まで連れて行くのに時間がかかった。足元はふらついているし、体重をかけられて重たくてしょうがない。
 息も切れ切れ、やっと部屋にたどり着きソファーへと座らせた。
 今にも寝てしまいそうだなぁ。うとうととしている羽柴さんを見て、さすがにここで寝るには狭いだろうからと僕は寝室へと向かう。
 ベッドのシーツを新しいモノに変えよう。着る物は流石にサイズが合わないので下着だけ用意する。まぁ、パンツ一枚で寝る事になっても、男同士だし構わないだろう。
 収納スペースから必要な物を取り出して寝室へと戻ると、背後に人の気配を感じて驚く。
「羽柴さん」
 ソファーに居ると思っていた。でも僕が連れてこなくて済んで丁度いいやと思い、
「シーツをとりまえるまで待っていてください」
 と羽柴さんに掌を向ける。するとその手を掴まれ、そのままベッドへと引きずり込まれた。
「羽柴さん、シーツをとりかえるまで待ってって言ったじゃ……」
「お前さ、警戒心なさすぎ」
 完全に目の座っている羽柴さんが、僕の首をぺろりと舐める。
「うわぁっ! 何を」
「高野の野郎、お前を酔わせて食うつもりだったみたいだけど……、お前って酒、強いのね」
「何を仰っているのか、まったく意味が解らないんですけど」
 離してくださいと胸を押すが、全然びくともしない。
「解らない? じゃぁ、教えてやろうか」
 あいつがどうしたかったか、俺が今、広人をどうしたいかを。
 そう囁きかけられ、唇をキスでふさがれる。
「え、はし……」
 歯列をなぞり舌を絡められる。
「ん、んっ」
 目を細めて僕を見つめる羽柴さん。
 無駄に顔が良いからって、女の子を落とすような顔で僕を見て、からかってやろうと思っているのだろう。
「やめろ、この酔っ払……、んふ」
 拒否しようと顔を振るが、押さえ込まれてさらに深く、貪られる。
 互いの唾液で濡れた唇から唾液がながれおちていく。キスに酔い、頭がボーっとしてきて力が抜けてしまった。
「広人」
 羽柴さんの手が服の中へはいり、僕の胸を弄る。
 その瞬間、ほわほわとしていた僕の頭が、一気に冷めた。
「うわぁっ!」
 ティーシャツを捲られ、ちゅっと吸われる。
「ちょっと、羽柴さんっ!」
「ん?」
 舌先で弄り、もう片方は指で摘ままれる。
 唾液で濡れたその箇所は、ほんのりと色づいてぷっくりとしていて、それを目の当たりにしてしまい、顔がカッと熱くなる。
 本気なのか?
 本気で僕を抱こうと思っているのか。
「なんで、こんな」
「言っただろう、教えてやるって」
「だからって、僕は女の子じゃない」
 チビで女顔の僕。同僚にもからかわれたりするが、本気で女扱いする人はいない。
 それは当たり前で、だから羽柴さんが僕にすることが理解できない。
「解ってるよ。でも俺は、お前とこういう事をしたいと思ってる」
「羽柴さん、もしかしてホモなんですか?」
「男に対してこんな感情を持ったのは広人だけだしな」
 そう言いながらズボンと下着を脱がされて。露わとなる下半身を羽柴さんはじっと見つめている。
 男のアレを見ても萎えるだけだろうが。
 このままやめたと手を引いてくれればいい。そう思ったのは束の間。
「こんな事を出来るのはお前だからだぞ」
 と、舌が自分の下半身のモノに触れてきた。
「ひぃっ、何を!?」
「ん? 別に平気だろ」
 舌で裏筋を舐めて先端を舌先で弄られる。びちゃびちゃと卑猥な音と共に襲う快感。
「ンぁ、そこ、いやっ」
 ピンと背筋を伸ばして、ぶるりと身を震わせる。
 それを咥えて吸われて一気に高みに上り、駄目だという間もなく口の中ではじけてしまった。
 濡れたモノは舌で舐めとられ、唇の端からとろりと垂れるのは僕が放ったモノ。
「ちょっと、まさか飲んじゃったんですか、って、んっ」
 自分のを舐めていた舌が口内を弄る。
 放ったばかりの僕の下半身のモノは、また元気を取り戻してたちあがる。
「そんな」
「なんだ、まだ欲しいみたいだな」
 大きな手で包まれ扱かれる。
「あぁっ」
「俺も欲しいよ」
 と、後ろを指で弄られた時には怖いからと全力で拒否した。そのかわりと、太ももの隙間に羽柴さんのモノをはさみ扱かれて、かたくなった大きなアレは、僕のを擦り一緒にイってしまった。
 そのまま腰に抱きつかれてベッドに横になる。
「最悪だ」
 男と、しかも会社の先輩とこんな事をしてしまうなんて。
「許せないってか?」
「あたりまえでしょう」
 羽柴さんの腕を解き、服を掴みベッドを降りる。
「どこへ行くんだ」
「シャワーを浴びに行くんですよッ。こんなベトベトな体のままでいたくはないんで」
「じゃぁ、俺も一緒に……」
「ふざけんな。アンタは後だ!」
 間髪入れずにそう答える。年上だからと一応は敬語をつかっていたが、それすらしてやるつもりがなくなった。
「さっきまで俺にしがみ付いて、目を潤ませながら善がってた癖に」
「よ、善がってねぇし!」
 そりゃ男同士なんだから気持ちいいトコも知っている訳で、アレを扱かれたら誰でもそうなるだろうが。
 枕を掴み顔へと投げれば、ぶつかる寸前で掴まれ、嬉しそうな表情を浮かべて投げキッスをしてくる。
 僕は悔しさから声にならない声をあげ、荒い足取りでバスルームへと向かった。