小さな食堂

召し上がれ

 先ほどから郷田からのメールを眺めている。
<店でなく沖さんの家に行っても良いですか。お話したいことがあります>
 良いよという返事はしたが、この前のこともあり都合よく期待してはバカだなと自分を諌める。
「きっとご飯のお礼をしようとか考えているだけだよね」
 あのまま郷田に抱かれたかった。だが、途中で男だということに躊躇い、やめてしまったのだろう。
「俺、何、期待してんだよ」
 心の奥底で、郷田は自分の行為を受け入れてくれると思っていた。
「どうしよう、昨日のことを謝られたら」
 もう、彼のことをただの客として見れない。
 なのに、このまま気まずくなって、店に来なくなってしまったら。
 そんな最悪な展開がよぎり、急に怖くなってきて、沖は携帯をテーブルの上に置き自分の身を丸くした。

 店に来ない郷田に、今日も忙しんだね、会えなくて寂しいねと言われる。
 この後に会う約束をしているのだが、そうですねと相槌をうっておいた。
「駿ちゃん、なんか様子がおかしいなぁ。郷田君と何かあった?」
「何もありません」
 鋭い。
 思わずグッと喉が詰まり、どうにか笑顔を浮かべて誤魔化してみたものの、河北には感づかれたかもしれない。
 様子を窺うが、それ以上にツッコんで聞いてくることもなく、食事を終えると少し話をして帰って行った。
「はぁ……。今はお店のことに集中しないとな」
 つい、この後のことばかり考えて、失敗しかねない。
 気持ちを切り替え、今は食堂の店主として料理を作ることに専念した。

※※※

 最後の客が帰り、店を片付けて家へと戻る。
 郷田の為に食事の準備をしている所に、家のチャイムがなり玄関へと向かう。
「いらっしゃい」
「すみません、お疲れの所をお邪魔してしまいまして」
「気にしないで。ご飯食べるでしょ? 用意するから」
 そのまま台所へと向かおうとしたが、郷田に腕を掴まれる。
「話を先にしても?」
 ぎくりと身体を強張らせる。
「……いいよ」
 郷田は自分い話をしに来たのだ。どんな内容だとしても聞かなくてはいけない。
 そのまま向い合せに腰を下ろす。
「話って?」
 真っ直ぐと彼を見れば、向こうも自分を見つめており、緊張で胸がどきどきと落ち着かない。
「飯もで食いたいですが、まずは沖さんを食いたいです」
「え!?」
 聞き間違いかと思いきや、
「沖さんとセッ……」
「待って!!」
 今度は直接的に自分を求めるようなことを言いかけた所で、沖は身を乗り出して郷田の口を両手でふさいだ。
「言いたいことは分かったから。理由を聞かせて貰ってもいい?」 
 手を離せばすぐにその手を掴まれてしまう。
「そういう意味で沖さんが好きだからです」
 と、指先に口づけた。
「ひゃぁっ、郷田君」
「駄目、ですか?」
 展開がいきなりすぎて驚いている。
 しかも郷田が自分と同じ気持ちだなんて思わなかったから。
「駄目じゃない。俺だって君のことが好きだから」
 沖の傍に移動した郷田に抱きしめられて唇を重ねる。
「ふぁ」
 そのまま押し倒されて、シャツの下から手を差し入れて肌を撫ではじめる。
「ん、沖さん、おきさん……」
 このまま食わん勢いの郷田に、胸をやんわりと押して口づけを止める。
「なんで」
「布団敷くから。そこで、ちゃんと食べさせてあげる」
 頬を撫でて軽く口づければ、身を起こしてシャツの下から手を抜いた。
「すみません。余裕がなくて」
「うんん。求めて貰えて嬉しいから。俺ね、郷田君が俺と同じ気持ちでいてくれたことが嬉しくて」
「実は他の人に言われて沖さんへ対する想いに気が付きました」
「そうなんだ。じゃぁ、俺はその人に感謝しなくちゃね」
 押入れから布団を取り出して敷き、服を脱ぎ捨てる。露わになっていく肌を郷田がじっと見つめていた。
「幻滅したでしょう?」
 女のような柔らかい身体をしているわけでもないし、綺麗な肌をしている訳でもない。胸だって平らだし、下には郷田と同じものがついている。しかも先ほどの口付で半たちしていた。
「いえ。今から貴方のことを食べられると思ったら嬉しくて」
「郷田君も俺に全部見せて?」
「はい」
 服を脱ぎ、その逞しい身体を曝け出す。
 それだけで興奮してゾクゾクする身体を郷田の腕が抱きしめる。
「郷田君って、良い身体しているね」
 互いの素肌がふれあい、胸がどくっと高鳴る。
「そう言って貰えて嬉しいです」
 口に鎖骨にへと口づけを落とし、ニコリと微笑む。
「んっ」
「前に沖さんのここを見た時、食らいつきたいって思ってました」
「してよかったんだよ? 俺は望んでいたのに」
「すみません。あの時はそこまで甘えてはいけないって」
 カリッと甘噛みをされて、身体は跳ね上がる。
「でも、もう遠慮はしませんから」
 美味しそうに口に含んで吸い上げられた。
「あぁん」
「ここ、弱いんですか?」
「郷田君が、俺のことを美味しそうに食べてくれるから」
 それが沖のを余計に感じさせていた。
「あぁ、成程。では、こちらも」
 と手が下へと伸びて、沖のモノへと触れる。
「郷田君」
「いつものように、俺のことを見ていてくれますか?」
 と大きく口を開いて沖のモノを咥えた。
 じゅるりと音をたて、視線は真っ直ぐと沖を射抜く。それに興奮が収まらずに口元を手で覆う。
「や、ひゃぁ……」
 大きくなるのを口内で感じたか、目を細めて吸い上げられた。
「だめ、もう、離して」
 卑猥な音をたてながら刺激されて、それに我慢しきれず口内に欲を放ってしまった。
 濡れた唇を親指で拭う姿もたまらなくグッとくる。
 放った後の倦怠感と郷田の色気に惚けていれば、郷田のたちあがったモノが目に入る。
「ねぇ、今度は俺が食べてもイイかな」
 と自分の唇を舐めながら郷田のモノへと手を伸ばす。
「沖さん」
「今よりも大きくなったら、後のお口でも食べてあげる」
 そう微笑めば、郷田が手で顔を覆い隠してしまう。一体どうしたんだろうと、下から覗き込んだ。
「沖さん、今までお付き合いした方にもそんなことを?」
 目元を赤く染めつつ、何か拗ねた感じで言われて、
「気になるの?」
 そう聞いてみる。
「……ただの嫉妬です」
 そんなことを言う郷田が可愛くて、彼のモノへと触れて舌を這わせる。
「くっ」
「ん、郷田君のここ、素直だね」
「はっ、沖さんに舐められている思うと」
「なに、そんな嬉しいことを言ってくれるんだ。じゃぁ、頑張らないとね」
 舌で舐めながら自分の後ろを解す。
 指を増やし、そろそろ彼のモノ受け入れられそうだなと上へと跨った。
「郷田君の、美味しそうって涎がとまらないっ」
 濡れた自分のモノを郷田へと見せつけ、
「たべさせてね」
 後孔へと郷田のモノを咥え込む。
「おき、さん」
「あと少しで全部はいるから」
 ぎゅっと首にしがみ付きながら腰を落としていく。
 随分と深い所まで入り込んだ。
「いいよ」
「沖さん」
 突き上げられて善がりながら腰を振るう。
「あぁっ」
「沖さんの中、キモチイイです」
「ん、俺もっ」
 離したくないとばかりにぎゅっとしめつけてれば、郷田がとろんとした目を向けて微笑んだ。
 それが嬉しくて、幸せで、沖はぎゅと彼にしがみついた。

 彼の精を中に受け、自分も腹へとぶちまける。
 既に何度か目の行為の後ゆえに、汗と欲で身体はベトベトだ。
「お腹すいたでしょう? ご飯用意するよ」
 怠い身体を起こし、一先ずシャワーを浴びに行こうとするが、
「まって。飯は朝で良いです」
 もう少し甘えさせてくださいと、背後から抱きしめられた。
「んっ、わかった」
 手が怪しい動きをはじめ、それは流石に掴んで止める。もう体力は限界だ。
「こら、もう駄目」
 顔を振り向かせて郷田の髪を撫でると、実に残念そうな顔で見つめられた。
「なら、抱きしめたまま寝てもいいですか?」
「それくらいなら。郷田君の腕の中、温かいし」
 と横になり向い合せとなり、胸に頬を摺り寄せば、髪を撫でられてそれが気持ち良くて、沖は眠りの中へと落ちた。

 夕食に出そうと思っていたきんぴらごぼうと、昨日店で出した大きめな角煮を一つ。そして魚の味噌漬けと浅漬け。
 旬の青物で作った白和え、そして大盛りご飯とお味噌汁を目の前に置く。
「召し上がれ」
「頂きます」
 自分も一緒に食事をしはじめる。
 思えば郷田と一緒に食べるのは初めてかもしれない。
「一緒に食うのも良いですね」
 と少し微笑みながら言われ、朝からときめかされた。
「なら、引っ越ししてくる?」
「……良いんですか?」
「うん。俺の作ったご飯、食べて欲しいし」
「はい」
 全ての皿の上の物がきれいになくなり、郷田が手を合わせる。
「ごちそうさまでした」
 満足そうなその表情に、微笑みながらお粗末様と口にした。