獣人、恋慕ノ情ヲ抱ク

ゾフィード③

 またも自分のいない場所でドニが危険な目に合ってしまった。
 自分もついていくべきだった。そうすればどちらかが二人を見ていることができたのだから。
 ファブリスにはドニを怒る資格はないのに、そのことを聞いた途端、気持ちを抑えることができなかった。
 ドニに優しくすると決めていたのは泣かせたくないから。それは今でも変わらない。
 風呂でのこともお仕置きもドニが望んだから、そう理由をつけて、本当は自分が望んでいただけではないだろうか。
 ドニは尻を叩かれると思っていたのだ。その通りにすればよかったのに、ファブリスから聞いた乳首の色を確かめ、自分で扱けといったのに結局は互いのをこすりあわせてイった。
 自分の腕の中で乱れるドニを思い浮かべ、耳と尻尾がピンと立った。そして下半身のモノもだ。
「はぁ、どうかしている」
最後のこれはお仕置きじゃないよねと、ドニに言われてその通りだと思った。これはただ欲心だったから。
 セドリックがしたことが、そしてドニの一途さがゾフィードの意識を変えた。
『――だからさ、お前も素直になんなよ』
 そうセドリックに言われた時、今更、好きになる資格など自分にはないと思っていた。
 だから友達として側にいたのに。もう無理なのかもしれない。
 それだけでは収まらない気持ちで満たされているから。

 ベッドに横になるドニの髪を撫でるとくすぐったいと目を細める。
 その仕草すら可愛く、そしてきゅっと胸がしめつけられる。
「ねぇ、ゾフィード。どうして俺に優しいの?」
 そう尋ねられて、自分の想いを告げようと口を開くが、本当に言いたかった言葉は飲み込まれ、
「そうだな、友達だからだろう」
 とこたえていた。
 失敗した。そう思い、すぐに言いなおそうとするが、
「はは、そっか、ごめんね。友達だからってこんなことをさせちゃって」
 ドニの表情が暗くなる。
 そこには愛はなく、ただ、慰めるだけの行為。一度、ドニをふっているのだからそう思われているだろう。
「ドニ、違う」
 だが、すでに遅く、
「ごめんねぇ」
 目から涙があふれ出ていた。またドニを傷つけてしまった。
「泣くな」
 なんて自分は馬鹿なんだろうか。呆れてため息がでてしまう。
 するとドニが服の袖で乱暴に目をこすり、引きつりながらも懸命に笑みを浮かべた。
「もう、へいき、だよっ」
 また勘違いをさせてしまった。
 健気なドニに、ゾフィードはその身を抱きしめて背中を撫でた。
「ゾフィード、ごめんね」
「謝るな。ドニは何も悪くないだろう! だから今までよりも優しくしようと自分自身に誓ったのに泣かせてしまったから」
「ゾフィード、それって」
 ドニの表情に浮かぶのは期待という文字。だが、それはすぐに曇り出して不安とかわってしまった。
「うんん、ゾフィードは優しいから、だよね」
 傷つかないように、そう思い込んで。いや、ゾフィードがそう思わせている。
「ドニ」
 ゾフィードはドニをまっすぐと見つめて頬へ手をそえる。
 今度こそ、きちんと想いを伝えよう。ドニの目を真っすぐと見つめて。好きだという気持ちと言葉を。