獣人、恋慕ノ情ヲ抱ク

ゾフィード②

 ドニが落ち込んでいることには気が付いていた。
 家族の話をはじめは楽しそうに聞いていたが、表情が徐々に曇り出した。
 唯一の肉親であった祖父を亡くし、いつも一緒だったロシェにはファブリスという相手ができた。
 ドニが求めた相手はこんな性格だから手を取らなかった。
 部屋を出ていく姿を見て追いかけようと思った。だがその手をロシェがつかんで引き留められた。
「ゾフィード、ドニが心配か?」
 ロシェもドニの様子がおかしいことに気が付いたのだろう。
「あぁ。途中までは楽しそうに聞いていたのにな」
 家族のことは聞いていたので、きっと寂しくなってしまったのだろうと思っていたのだが、
「実はさ、村に帰っていたときに嫌なことがあって」
 ロシェは村で起きた出来事を話してくれた。そのせいで気持ちが不安定なのだという。
「そんなことがあったのか」
 村から帰ってきてすぐに甘えてきたのはそういう理由だったのか。
 どこかホッとした表情をしていたから、家に帰って懐かしくて切ない気持ちになってしまったのかと思っていた。
 だが同じ村に住んでいたというのに、相手を見るのではなく外見に目がいくなんて。
 村でのことはあまり聞いたことはないが、ドニはどれほど悲しかっただろう。
「そうか。ドニの様子を見てくる」
「そうしてやってくれ」
 傍にいてやってくれといわれて、そうするつもりだと言葉を返した。

 やはりドニは落ち込んでいた。
 風呂の中でのひとりごとをゾフィードは黙って聞いていた。
 ドニに告白された時、信じてやれなかった。ひとりぼっちだという言葉に胸が痛んだ。
 もうこれ以上は悲しませない、そう決めたのだ。だから服を脱ぎ風呂へと乱入した。
 そして、まさかドニとあのような行為に及ぶことになろうとは思わなかった。
 下半身のモノに触れられて「ドニ、よせ、もむな」と口にはしたが、気持ちが紛れるのならと気持ちを切り替えたら、そこに触れられることが気持ちよく感じた。耳と尻尾が素直に動く。
 口で咥えたいと言われた時はさすがに驚いた。獣人は牙があり生肉でも食いちぎれるから、同じように思ってしまった。
 だから口の中を舌を使って確かめた。人の子の口の中にも尖った歯があったが、それは犬歯というものだと知った。
 それを何度も確認するように舐めると、ドニの表情がとろんとしている。
 調べ終わったので舌を抜くとドニが物足りなさそうな顔をするが、すぐに興味は下半身のモノへとうつった。
 人の子と違うところに驚き、そして確かめていく。
 舌が先へと触れたとき、驚くほど体の芯が震えた。それは不愉快なものではなく気持ちがよくて更に欲しくなるものだった。
 ドニのモノはかわいらしいサイズであったが綺麗な色をしていた。気持ちよかったから自分もとそれをなめたとたん、顔を真っ赤に染めた。
 予想外の反応だった。ゾフィードに対してはグイグイとくるのに、いざ自分となるとそういう顔を見せるのかと。
 胸を矢で撃ち抜かれたような衝撃をうけた。
 ドニのを舐めたら一体どうなってしまうのだろう。その姿を見てみたい。
 ごくっとつばを飲み込む。
 だが、その姿は見ることができなかった。ドニがのぼせてしまったからだ。
 残念。
 そんな言葉が頭の中に浮かび、ゾフィードは口角を上げる。
 まさかそんなことを思うなんて。ドニと出会ってから自分は本当にかわった。

 ドニが眠りに行った後にファブリスと一緒に酒を飲む。
 ニヤニヤとこちらを見ていたのでムカついて尻尾で腕をはたいた。
 一緒に風呂に入ることなど一度もしたことはないし、頑なに断ってきた。それゆえにゾフィードの変化が楽しいのだろう。
「なぁ、ゾフィード。人の子は色が綺麗だとは思わないか?」
「色、だと」
 すぐに浮かんできたのはドニの下半身のモノだった。
 獣人は雄の象徴を守るように毛で包まれているのだが、人の子は頼りなさげに生えている。
 そこから綺麗なものが顔をのぞかせていた。
「そうだな。あれは綺麗だった」
 胸も淡いピンク色をしてた。
「乳首を舐めているとぷっくりと膨れて赤く染まるんだ。それが突起してさらに感じやすくなる」
 そこは唾液でいやらしく濡れる。まるで下のモノから流れ落ちる蜜のように誘うのだそうだ。
「そうなのか」
 それは見てみたかった。今日は下に少し触れただけなのでそこまで変化を見ることはできなかったからだ。
「ふ、いい傾向だな」
 そういわれて首を傾げる。
「どういう意味だ」
「今までのゾフィードは興味ありませんと話しにのってこなかっただろう?」
 その通りだ。仲間たちとそういう話になるとゾフィードは離れていく。
 恥ずかしさもあったが、興味もあまりなかったからだ。
「なぁ、今、ゾフィードの中で誰を想像していた?」
「どうして、そんなことを聞く」
「もどかしいからだ」
 ファブリスは立ち上がるとゾフィードの胸へと拳を当てた。
「明日は森に行くから休もう」
「そう、だな」
 もどかしい、それはドニに対する想いのことか。
 ファブリスまでもがゾフィードを責める。
「わかっている。俺だって、自分の性格が嫌になる」
 好きになる資格がない、それはただの言い訳。ドニはきっと自分を受け入れてくれるだろう。
 あと一歩、ゾフィードが前に踏み出すだけだ。