甘える君は可愛い

年下ワンコはご主人様が好き

 このまま一緒に住みたいと言いだした久世に、期限をつけて引っ越し先を探させることにした。
 嫌だと駄々をこねられ、仕方がないので一緒にネットで情報を見たり不動産屋を回ったりしてやった。
 久世が選んだ引っ越し先に文句を言いそうになったが、それを理由に居つかれたら嫌なので我慢した。
 そう、彼の引っ越し先は波多の住むマンションの目と鼻の先だった。
「これから行き帰りと一緒ですね」
 毎日、迎えに行きますねと笑顔で言われて、ウンザリとした顔を向ける。
「来るな、迷惑だから」
 朝から無駄に体力を消耗したくはない。
「えぇっ、嫌です。その為に近くに引っ越しをするんですから」
 ぎゅっと抱きしめられて、ウザいと突放す。
「両思いなんですし、良いじゃないですか!」
 ね、と、唇にキスをしようとする久世の頬を手で挟んで止める。
「はたさぁ~ん」
 何故、止めるのかと久世が唇を尖らせるのを指で挟んでふにふにと動かす。
「俺とお前は両想いじゃない。したがってキスもしない。OK?」
「むぎゅぅ」
 あからさまに落ち込む久世から指を離し、しょうがないなというように髪をワシワシと撫でてやる。
「家具や電化製品を見に行くの、付き合ってやるぞ」
 と言えば、「本当ですか!」とすぐに表情が明るくなって、良かったとホッとする。
 この頃、久世の事を甘やかしている。
 毎日「好き」や「愛している」を波多に告げて甘えてこられたら少しくらいは情がわく。
 だが素直になれずに告白の返事は曖昧にしたままだった。

 電化製品は前の日に見て回ったので、今日は家具を選ぶだけだ。
 大きな店舗のインテリアの店に入り、早速必要な家具を眺めていく。
 シンプルなデザインが好きな波多はつい、そちらに目がいってしまう。久世の好みもあるだろうに、自分で選べと言ってもそれでいいと決めてしまうのだ。
「お前なぁ……」
「波多さんの選ぶの、シンプルで良いですもん。あ、ベッド」
 ソファーやベッドのあるコーナーで久世は一直線にキングサイズのベッドの元へと向かう。
「そんなおおきいのは要らないだろうが」
「いりますよ。ゆったりとしてますよ」
 二人で寝ても大丈夫です、と、耳元で言われて。馬鹿と腹に肘鉄を食らわせる。
「これは要らん。こっちにしろ」
 セミダブルのベッドを指さすが、嫌だと首を振る。
「ならばせめてダブルで……」
「必要ない」
「俺は、波多さんと一緒に……、もがっ」
 とんでもない事を大きな声で口走りそうな久世の口をあわてて塞ぐ。
「変な事を言うんじゃねぇよ」
「ううっ」
 しゅんと落ち込んでキングサイズのベッドを眺めている。
 理由が理由だけに好きにしろとは言えない。
 結局、ダブルのベッドを選び、次にソファーを選ぶ。もう全然選ぶ気がない久世のかわりに波多好みの家具ですべての家具をそろえた。

※※※

 それから数週間後。家具や電化製品が入り住める状態となった。
 元から久世の荷物はあまりないらしく、片づけもそう大変ではなかった。
 後は備え付けのクローゼットにスーツをしまうだけ。
「寝室に入るぞ?」
 流石にここに入るには声を掛けた。
「はい、どうぞ」
「なっ、ベッド……」
 あのキングサイズのベッドが寝室にどんと置かれている。
 会計の時、お茶をしながら待っていてくださいと言われてベンチで煙草を吸いながら待っていた。
 その時に変更したのだろう。
「俺はこのベッドで波多さんと一緒に寝たいんです! だから何を言われてもいいんですもん」
 言いきったか、この野郎。
「寝たけりゃお一人様でどうぞ」
 とクローゼットを開ける。
 ベッドが大きいせいで扉を開くと狭い。
「すっげぇ使いにくい……」
「でも、開きますし。それにね」
 そう身体を掴まれてベッドにダイブする。
「うおっ、久世、何を」
「寝心地良くないですか、これ」
 確かに。マットは体になじむし、ゆったりとしていて気持ちがいい。
「まぁ、なんだ、お前が唯一選んだモノだしな」
 これで寝たら気持ち良く朝を迎えられそうだと、思ってしまった事は黙っておく。
「そういえばケーキ貰ったよな」
「はい。引っ越し祝いだそうです。リビングに行きましょうか」
 久世の元彼女の家へと荷物を引き取りに行った時、お祝いだと渡された。 
「俺の好きなデコレーションケーキだ」
 家の形をしたマジパンと、チョコレートプレートには『だいきくん、おひっこしおめでとう』と書かれていた。
「ぶはっ、まるで子供の誕生日ケーキだな、これ」
 彼女の茶目っ気を感じて、好感度が上がる。
「こういう事をしてくる所が、また可愛いんですよ」
 ケーキを眺めながら元彼女の事を自惚れる久世に、はいはいと適当にあしらう。
「お前の引っ越し祝いだ。このまま食べてもいいぞ」
 とフォークを渡す。
「折角ですし、少しで良いですから波多さんも食べて下さい」
 一口サイズにカットされたケーキをフォークに刺して差し出してくる。
 あまり好きではないがお祝いだしと仕方なくそれを食べる。
「ん、甘いな」
 唇についてしまった生クリームをぺろりと舌で舐めとれば、そのまま唇を奪われた。
「く、ぜ」
 甘いままの舌を絡みとられ、離せと肩を掴むがそのまま床へと押さえつけられる。
「や……」
「はぁ、可愛い、波多さん、大好き……」
 くちゅくちゅといやらしい水音と熱に体の芯が甘く痺れをもつ。
 間近で見つめる久世の目は、甘い物を食べている時見たくトロンと垂れていて。
 そんな表情を見ていたらたまらなくなって、手を伸ばして頭を抱きしめていた。
 唇が離れると、嬉しいと何度も唇を啄まれ、それもしばらくは受け入れていたが鬱陶しくなってきてやめろと額を手刀で叩く。
「キス、気持ちよかったですね」
 人差し指の先でちょんと唇に触れられて、やめろと首を振る。
「お前、調子にのんなよな」
「えぇ? でも、波多さんも感じてましたよね」
「はっ、あんなの大したことは……」
「でも波多さんの、たってますよ?」
 とズボンの上から撫でられて、ビクッと飛び跳ねる。
「仕方がないだろ。お前が家にいたから溜まってんだよ」
 きっとそのせいだと、けしてキスに感じてなどいないと久世に言い聞かせる。
「へぇ、ならお詫びに、あのベッドでご奉仕させて頂きます」
「いらん。お前はケーキでも食っていろ」
「後でちゃんと食べますよ」
 と冷蔵庫へケーキをしまうと、軽々と波多を抱き上げられた。