町へ行こう
食事が終わり町に行くための準備を始めると、魔王がくちばしで手をつつく。
「リッド様はお留守番を……」
肩に乗る魔王。連れて行けと言いたいのね。
まぁ、別に構わないか。
外に出て人気のない場所で魔王が人型となる。
「リッド様、その姿で行くの?」
「大丈夫だ。フードをかぶると意外とばれないんだ」
何度か行ったことがあるというのだからそうなのだろう。
町に行くのは香辛料を買いに行くためだ。
ゴートラン島国にも香辛料はあるが種類が少ない。それは交易をしていないからだ。
あの島で採れるものしかない。
俺にはどうしても作りたい料理があった。
転生前はレトルトに専門店、固形ルーがあったから簡単に食べられた。この世界にきてからも店に行けば食べることができた。でも交易をしないゴートランにはカレーに必要な香辛料がない。なので誰もカレーの存在を知らないのだ。
カレーを作るのには、クミン、コリアンダ、ターメリックが必要だ。
料理で回復したり何かの効果が付与されたりする。俺が作る料理にも多少なり効果があるわけだ。
でだ。カレーは美味いだけでなく万能な回復薬でもあった。しかも金策としても使える。
「どこへ向かうんだ」
「香辛料のお店だ」
露店で香辛料を売っている。何種類か購入すると結構な量となった。
「荷物持ちがいて助かる」
そのかわりに美味しいカレーを食べさせてやるから。
俺の用事はすんだので魔王にどこか行きたいところはないかと聞くが特にないようで、ぶらぶらと町の中を歩くのが好きだという。
その理由は人々を観察することだった。
「リッド様、いつか他国と親睦を深めたいと思っている?」
「あぁ。不便なく生活はできているが、他国とつながることで国を発展させたい」
やっぱり王様なんだな。
今まで魔王の考えを聞いたことがなかったからさ、しみじみ思っちゃったよ。
「ブレフトを連れていくときに姫と話をした。自分たちの時代には互いに手を取り合っているとよいなということを」
実は魔王が倒された後の世界ではアルトがこの地を治めることになる。
もし、魔王が生きていたら。
アルトファンタジア2では主人公のアルトリーネが、魔王の子孫と共に過去にタイムリープする。
そして魔王を生かすために奮闘する物語だ。
タイムリープをするアイテムである懐中時計。それは10回までしか使えず、生存ルートが消滅する。
実は10回では成功しない。あることをすると奇跡がおきて1回つかえるようになるのだ。
途中から修正できればいいのだけど、はじめからやり直さないとだめで、強いままゲームをやり直せるのはそのためだ。
アルトリーネまで出てこないだろうな。なんせここは薄い本の世界だし。
「ブレフト、我の手助けをしてほしい」
「おう。俺にできることならするよ」
姫様からは何も言われなかったが望んでいるだろう。
「王妃として」
「断る」
「ふ、即答だな」
解っているくせに。少しぐらい落ち込んで見せろよな。
魔封じリングの効果はすでにないが、三日間ゆっくりさせてもらった。
何度かマックスがきて魔王が体当たりと突き攻撃をあたえて痛がっていたのにめげない。
まぁ、訓練で痛みには慣れているけれど、もしかして、そういう趣味があるのかも。
「あのさ、俺はマックスのことを友達以上には見れないから」
「それでも、思うのは自由だろ?」
思うのもダメだ。お前には婚約者がいるんだからな。
こんなに話の通じないやつだったっけ?
「姫様に送ってもらうから、ここでお別れだ」
「まて、ブレフト」
マックスが俺の腕をつかんで、あろうことが顔を近づけてきた。
冗談だろっ。
「ふざけん」
つき飛ばそうとしたその時、
「触れるな」
魔王がマックスを掴んで投げる。
ドンと大きな音を立ててマックスがドアごと吹き飛んだ。
「あ……」
やばい。
この音に皆が集まってしまうだろう。
「リッド様、鷹になって」
「わかった」
まだ魔王の姿を皆に見せるわけにはいかない。
自分たちと見た目が違うだけで彼らは襲い掛かるかもしれないからだ。
わらわらと人が集まる。
伸びているマックスを見て、
「とうとう襲ったか」
そう誰かが口にして頷く仲間たち。
とうとう襲った、だって? それは、知っていたということか。
「どういうことだ」
「え、こいつがブレフトのことを好きだって、わかり易いだろう」
うそだろ。
「いつかこうなると思ってた」
のんきにそんなことを口にする。
気が付いていたなら止めろよ。婚約者がいるんだからさ。
「お前らさ」
「言っても聞かないだろ。恋というのはそういうものだ」
「一度痛い目にあえばあきらめがつくだろう?」
だから放っておいたというのだ。ちゃんとマックスのことを考えていたんだな。ちょっとだけ見直したぜ。
「そっか」
「掘られるかと思ってたけどな」
そういって笑う。そいつには魔王がくちばし攻撃を食らわせていた。魔王、グッジョブ。
「こいつのことは俺たちがやっとくから、姫様のところにいくのだろう?」
「あぁ、宜しく頼むよ」
マックスを任せて魔王と共に姫様のもとへと向かう。姫様が目的地に送ってくれることになっているからだ。
ドア越しに声を掛け、入室許可を得て中に入る。
「休暇は楽しめましたか?」
「はい。久しぶりに仲間に会えましたし、買い物もできて楽しかったです」
「お父様は古い考えの方なのでお話しすることはできませんが、お兄様にはお伝えしています。今度、お時間を頂きたいとおっしゃっていましたわ」
鷹から人型に戻った魔王が、その時を楽しみにしているとこたえた。
王はゲームと同じか。魔族を同じ者とは見れない。排除すべき者だと。
「ブレフト、任務を与えます。まずは瘴気の原因、特産物となるものを調べなさい」
「わかりました」
瘴気は悪臭を放ち人体に何かしらのダメージを与える。ただ、元となる場所を浄化しなくてはすぐにわいてでてくるのだ。
魔族には浄化魔法を使えるものはいない。これは聖なる魔法の使い手だけが覚えられる魔法だ。
「ちなみに……聖女様は女ですよねぇ?」
「うふふふふ」
なに、その微笑みは! まさか、男体化している、のか。
聖女様は前向きで優しい少女で、サポートメンバーとして旅に同行する。
甘いものに目がなくて、屋台で甘いものを見かけると欲しがったりする。それがかわいかったのに。
男にねだられてもなぁ。
ため息をつくと手が頬を包んで視線が魔王と合う。眉間にしわがよってら。
「あのさ、聖女様は国にとって特別な存在なわけ。瘴気を浄化して頂くことになるかもしれないんだぞ」
ほんと、すぐにヤキモチをやくのだから。
「それでは姫様、そろそろ戻りますね」
「はい。ゴットフリッド王陛下、ブレフトのことを宜しくお願いいたします」
「あぁ」
魔王は俺を抱き上げてワープの呪文を唱える。
おい、抱き上げる必要はないだろうが!!